タダ働きさせて当然? 日産系ディーラー問題で考える”下請け法”と日本経済の連鎖
ねえ、日産系のディーラーが下請け法に違反したってニュース見た?整備業者に車を”タダ”で運ばせてたって。
ああ、日産東京販売の件だね。2,000台以上を無償で運搬させたとして、公正取引委員会が勧告する方針らしい。
そもそも下請け法って何?うちの会社にも関係あるのかな。
実はね、これは日産だけの話じゃないんだ。日本の経済全体に関わる問題なんだよ。
今回のニュース:何が起きたのか
2026年2月、公正取引委員会(公取委)は、日産自動車系のディーラー「日産東京販売」に対し、下請け法違反として近く勧告を出す方針を固めたと報じられました。
具体的には、同社が車の修理を委託した整備業者(下請け企業)約20社に対し、修理のために必要な車の運搬を無償で行わせていたというものです。無償で運搬させた車は2,000台以上に上るとみられています。
整備業者はトレーラーなどを手配して車を運んでいましたが、その費用は一切支払われていませんでした。
断れない力関係があった
「なぜ断らなかったのか」と思うかもしれません。しかし、大手ディーラーと中小の整備業者では、立場に大きな差があります。
仕事を発注してもらっている側の中小業者は、発注元の大企業に対して「それはできません」と言いにくい構造があります。こうした力の非対称性こそが、下請け法が生まれた背景にあります。
そもそも「下請け法」って何?
下請け法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)は、大企業が中小企業・小規模事業者を不当に扱うことを防ぐためのルールです。1956年に制定されました。なお、2026年1月からは「取適法(中小受託取引適正化法)」として改正・施行されていますが、本記事では一般的に広く知られた「下請け法」という呼称を使用します。
たとえば、こんな行為が禁止されています。
・代金を不当に低く設定する「買いたたき」
・一度決めた代金を後から一方的に減らす行為
・本来、発注側が負担すべきコストを下請けに押し付ける「利益提供要請」
今回の「無償で車を運ばせた」行為は、この「利益提供要請の禁止」にあたります。つまり、ディーラー側が本来負担すべき運搬費用を、整備業者に肩代わりさせていたわけです。
公正取引委員会(公取委)とは?
公正取引委員会は、市場における公正な競争を守るための独立した政府機関です。独占禁止法や下請け法の運用を担っており、違反が認定されると勧告という形で是正を求めます。今回はその勧告が行われる見通しです。
【参考サイト:公正取引委員会】
取適法(中小受託取引適正化法)特設サイト
これは他人事ではない:あなたの給料にも影響する
「日産と整備業者の問題でしょ?」と感じた方もいるかもしれません。でも、このような構造は日本中の業界で起きていて、実は私たちの給料や生活に直結しています。
次のような流れを考えてみてください。
負のサイクル
① 下請け企業が、コストを押し付けられて利益が出ない
② 利益がないため、社員の賃上げができない
③ 働く人の給料が上がらず、消費にお金を使えない
④ 消費が冷え込み、日本経済全体が縮んでいく
このサイクルが回り続けると、景気は一向に上向きません。下請け企業の問題は、巡り巡って日本全体の問題になるのです。
政府が賃上げを呼びかけても、そもそも下請け構造で利益を削られている企業には、賃上げの原資がありません。問題の根っこは、発注側の「タダで当然」という意識にあります。
「買いたたき」が健全な経済を壊す
「価格転嫁」という言葉をご存じですか? 原材料費や人件費、輸送コストなどが上がったとき、その増加分を商品やサービスの価格に反映させることを「価格転嫁」といいます。
本来、コストが上がれば価格も上がるのが市場の自然な動きです。ところが、力の強い発注側が「値上げは認めない」と押しつけると、下請けはコスト増を自分たちの利益で吸収するしかありません。これが「買いたたき」の実態です。
「安ければいい」の代償
発注側が「より安く」を追求し続けると、短期的には調達コストが下がって見えます。しかし長期的には、下請け企業の体力が削られ、廃業や品質低下につながります。
結果として、発注側自身が困る事態になりかねません。
実際、日本政府は近年、価格転嫁の推進を重要政策に位置づけています。2023年には内閣官房が「価格転嫁円滑化の取組」を進め、適切な価格での取引を促す方針を明確にしています。それだけ、この問題が根深いということです。
まとめ:知ることが最初の一歩
今回の日産東京販売のケースは、氷山の一角に過ぎないかもしれません。同様の構造は、建設・食品・物流・IT業界など、日本のあらゆる産業に存在しています。
・下請け法は、弱い立場の企業を守るためのルール
・「無償で何かをさせる」行為は、立派な法律違反になりうる
・下請けの搾取は、賃上げの停滞・消費の冷え込みという形で私たち全員に影響する
・「適切な価格転嫁」を認めることが、健全な経済の基本
発注する立場の方も、される立場の方も、まずはこの問題を「自分事」として知っておくことが大切です。
下請け法って、知らないと損するし、知らないと加害者にもなりかねないんだね。
そうなんだ。経営者も、働く人も、消費者も、みんなどこかでこの連鎖の中にいる。だから他人事じゃないんだよ。

